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特許調査で実は一番肝心(かもしれない)なこと

…なーんてブチ上げてみましたが、最近思うことのひとつです。

先週末、4月9日(土)は、知財系オフ会@東京2011年春 for japan に参加させて頂きました。パテントサロンのオフ会には昨年秋にも参加させて頂き、昨年春のオフ会にも参加し、おかげさまで多くの方と知り合うことができ、交流を深めることができています。

このような場で、初対面の方とご挨拶し、名刺交換などいたしますと、お相手が企業知財部の方や特許事務所にお勤めの方で、ご自身でも特許調査をなさるという方の場合は、いくつかの会話を挟んだ後に
「調査は難しい」
「調査はわからない」

といった流れになることが多い…ように最近感じられるようになりました(気のせい?)。

具体的に調査のどの部分が難しく感じられるのかを質問してみても、具体的に「特許分類、何をどう使ったらいいのか」とおっしゃる方よりも、どうも漠然と「わけわからん」と感じていらっしゃる方が多いようなのですね。「それっぽくやってはいるけれど、なんとなく『これでいいのか』という不安が拭えない」ですとか。

何人か(何人も?)の方と同じような会話を繰り返し、職場でも話題にするうちに、前の職場で新入社員を指導したときの経験がフラッシュバックしてきて、
「もしかして『特許調査がわからない』というのは、コレができていないのが原因なのでは?」
という点に思い至りました。それは、「見つけたい文献を想定する」ということです。

「そんなことは誰だってやっている」
と思われるかもしれませんが、ここでいう「文献の想定」とは、単に
「コレ(無効化したい特許)と同一発明が記載されてるヤツ」
「そうでなきゃせめて類似してるヤツ」
等というだけでなく、もっともっと具体的なもので、そうですね、例を出しますと、

<無効化資料調査の場合>
知財でよくある「六角形断面を有する鉛筆」を例にとります。
請求項の記載が「六角形断面を有する鉛筆」という発明を無効化したい場合、まず、
「どのような文献が見つかれば無効化できるか?」
ということを考えます。もちろん六角形断面を有する鉛筆を開示した文献であるにこしたことはありませんが、現実とは悲しいモノで同一発明を開示した先行文献など見つけられることはごくごくまれです。となると、進歩性を否定し得る文献を、となるわけで、
「(六角形に限らない)多角形断面を有する鉛筆」
「(同じ転動防止効果を奏する)非円形断面の鉛筆」
「いや、鉛筆でなくても筆記具なら」
「筆記具で無ければ同じように転がっちゃ困る軸状モノで…箸とか」
(さすがにココまで来ると、進歩性を否定するのも難しいか…)

などといった具合に、想定するのです。

そしてその想定に従って、特許分類を選択し、キーワードを選択していきます。
例えばFIでいえば、大きく「筆記具」でくくればB43Kであっても、鉛筆(B43K19/00)、シャーペン(繰り出し鉛筆)(B43K21/00)、ペン(B43K5/00)、ボールペン(B43K7/00)ではそれぞれ異なるメイングループに分類されますから、「鉛筆に関する公報を探すのか」「ボールペンを探すのか」によって、検索式は大きく異なってくるはずです。(ちなみに箸はA47G21/10B。)

つまり、「見つけたい文献を具体的に想定する」という作業をせずに、いきなり無効化したい特許の登録公報に記載されている特許分類と同じ分類を使って検索式を立てる、といった作業をしてしまうと、その検索範囲内に見つからなかったときに妙に不安になったり、その先の調査範囲の広げ方がわからなくなったり、調査の「止め時」がわからなくなったりするのじゃないかな…と。

<侵害予防調査の場合>
またしても「六角形断面を有する鉛筆」を例にとりまして、これが「イ号製品」であるとして侵害予防調査を行う場合には、
「このイ号製品はどんなクレーム記載の権利を侵害しうるだろうか?」
を想定します。
「請求の範囲に『六角形断面を有する鉛筆』が記載されているヤツ」は当然ですが、
「多角形断面を有する鉛筆」
「非円形断面を有する鉛筆」
「非円形断面を有する筆記具」

というクレームも、イ号製品を権利範囲に含みそうです。

一見、無効化資料調査の場合と同じに見えますが、注意点があります。無効化資料調査では「三角形断面」でも「四角形断面」でも「五角形断面」でも、とにかく「n角形断面の筆記具」が何かしら記載された文献が見つかればそれは適合文献ですが、侵害予防調査では抽出すべき対象にはなりません。ずばり「六角形断面の鉛筆」か、そうでなければ「多角形断面を有する筆記具」のようにイ号の上位概念が、「請求の範囲」に記載されている公報でなければ、調査依頼者に報告するに足る文献とはならない、ということです。八角形断面のボールペンなんて!ましてや「箸」など!

となれば当然、検索式に使用する分類もキーワードも、無効化資料調査(や、それを含む先行技術調査)の場合とはまたさらに異なってくるわけです。

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といったわけで、漠然とした「わからない」も、特許調査によくある、
「分類の使い方(選び方)がよくわからない」
「キーワードの使い方がわからない」
「とりあえず似たようなもの拾っちゃうけど、実は精読スクリーニングに自信がない」

等々といったお悩みも、もしかすると
「見つけたい文献の想定が具体的にできていない」
ことに起因するのではないかと。逆に、この想定がきちんとされていれば、分類の選択にもキーワードの使い方にも精読抽出にも迷いが無くなって、リーズナブルでコンプリヘンシブルな特許調査ができるのではないかと。

考えてみれば、捜し物の具体的なイメージも無しに、ただ闇雲に探し回ったって、うまく行くはずがありません。特許データベースに収録されている公報の数は膨大です。予め明確なヴィジョンを持って、秩序と方法によって探すのでなければ、非効率的にすぎるというものです。

最後に念のため付け加えれば、いくら想定して探しても、想定通りのものが見つかるとは限りませんし、想定外のものが見つかることもありますし、想定したものを想定してなかった範囲で見出すこともあります。特に調査の経験が浅いと、こういうことが良くあります。ですが、それでも文献を想定する作業は調査に必須のものと考えます。情報の海に漂う目的物を、秩序と方法をもって探す、その秩序と方法を組み立てるのに必要と思いますし、調査の止め時を見極めるのにも有効です。最終的に目的の文献が見つからなかったときに、手当たり次第に探すだけではどうしても「もしかしたら、もうちょっと別に探せば見つかるかもしれない」という思いに縛られがちですが、見つけたい文献のイメージが具体的で明確であれば、「ここまで探して無かったのだから、この範囲外にはもうあるまい」という見切りを付けやすくなります。

特許調査は何だかよくわからん!とお悩みの方、いかがでしょうか?

by hemp-vermilion | 2011-04-12 00:24 | 特許サーチ

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