文献の評価
2009年 06月 16日
どのように評価を行うかということは先行技術調査の種類にもよります。無効化資料調査なのか、出願前/審査請求前公知例調査なのか。
無効化資料調査の場合、あまり成績っぽい評価はつけません。報告書の形式にもよりますが、たいていの場合、「この文献には○○が開示されている。」とか、「△△が▲▲である旨の記載はない。」とか、客観的に文章として述べるにとどまります。見出した文献のうち、どれを報告してどれを報告から除外するかという意味では、文献の(無効化資料としての)有効性をランク付けしますが、報告する文献の中でそれを行うことはまずありません。(ただし、無効化資料としてかなり使えそうな感触の強い文献を筆頭に挙げて報告書に記載することはあります。)
しかし、出願前/審査請求前公知例調査の場合は、依頼主によって見出した文献について成績をつけることが要求されることがあります。いわゆる、X、Y、A等です。
ちなみに、
Xとは、それで本願発明の新規性/進歩性を否定し得る可能性のある文献、
Yとは、他の文献との組合せによって本願発明の新規性/進歩性を否定し得る可能性のある文献、
Aとは、単に出願当時の技術水準を示す文献、
です。
この、評価が…難しいときがあるのです。
例えばそれは、請求項の記載が広い場合。
請求の範囲は、広い権利を取るために、特に出願当初は広く上位概念で記載するものだということは、良く知られていることです。特に請求項1なんて、ダメもとでチャレンジングな記載にしてある場合がほとんどですしね。ですが、広すぎるあまり、先行技術を含んでしまって、発明の芯の部分には新規性がありそうなんだけれど、泣く泣く(?)文献にXの評価をつけざるを得ないことがあります。
とはいえ、このようなことが起きるのは独立項だけです。さすがに従属項ともなって限定が加われば、同じ出願でもX文献を挙げられることはあまりありません。
そして、このように「請求項3なら進歩性だせそうだけど、請求項1はこれで新規性無しかもね」と思いながらXを付けたときに限って発明者の方から「発明を理解していない!」と言われてしまったりして、サーチャーとしてはもうダブルパンチです。それは、分かっているんです、発明もちゃんと理解していますけれど(多分)、新規性・進歩性の判断は請求項に記載された発明に基づいて行わなくてはいけなくて!
かといって、実施例等の記載に基づいて判断をすると、「審査基準も知らないサーチャー」だと思われてしまいますし。いや、いや、ここは心を鬼にして、XなものはXとつけるのだ!
そもそも、出願前/審査請求前公知例調査というのは、調査結果を基に「どこまで請求の範囲を限定すれば権利化の可能性があるのか」という判断をするためのものなのです。例えば、(あくまでも例えです!)
【請求項1】
構成要素αと、
構成要素βと、
構成要素γと、
を備えることを特徴とするA。
【請求項2】
さらに構成要素δを備えることを特徴とする、請求項1に記載のA。
【請求項3】
前記構成要素δはΔであることを特徴とする、請求項2に記載のA。
なんていう請求の範囲があったとします。請求項1はダメもとで広めに。請求項2は少し限定。請求項3は実施例にも記載した本命の発明。
そして、調査で見出した文献は次のイ)、ロ)、ハ)の3つだったとします。
文献イ)には構成要素α、構成要素β、構成要素γの全てを備えるAが記載されているから、請求項1に係る発明は新規性無しの可能性高し。よって、文献イ)はX文献。
請求項2については、構成要素α、構成要素β、構成要素γ、構成要素δの全てを備えるAが記載されている文献は見つからなかった。よって、新規性はありそう。
文献ロ)には、構成要素α、構成要素β、構成要素δを備えるAが記載されていて、構成要素δを構成要素γとともに備えることに困難性がなく容易想到だとすると、文献イ)との組合せにより、請求項2に係る発明は進歩性無しの可能性高し。よって、文献ロ)はY文献。
文献ハ)には構成要素α、構成要素β、構成要素εを備えるAが開示されていて、構成要素εはγ、δ、ζ、η、その他様々なものに置換されても良い旨の記載がある、が、併せて、Δとの置換は困難である旨の記載もある。とすると、請求項2に係る発明についてはともかく、請求項3に係る発明についてはA文献。
ここで調査結果を見れば、請求項1に係る発明はやっぱりそのままでは拒絶される可能性が高く、請求項3に係る発明には特許可能性がありそう、ということがわかります。請求項2については、意見書等でどこまで頑張れるかを検討して、対策を考えることができます。
見込みのない請求項なら削って審査請求費用を抑えたり、そもそも審査を請求しないという選択をしたり、審査請求後でも出願を取り下げて審査請求費用の一部を返還してもらったり、そういうお役に立つためにサーチャーは調査をするのです。それが、サーチャーのお仕事なのです。
だから、X文献が報告書に記載されていたからって、発明者さんの基本的アイデアが全否定されたわけではありませんから!なるべく広い権利を取るために、どこまでなら広くしても大丈夫かを調べているわけですから!サーチャーはこのようにして、新規性・進歩性がありそうかどうかを判断する弁理士さん方のお手伝いをするのです。
うーん、報告書をもっと工夫できればいいのかなぁ。でも、出願前/審査請求前公知例調査って、報告書のフォーマットがお仕着せの場合が多くて(泣)。なんとか分かりやすい報告書にしたい!です。
by hemp-vermilion | 2009-06-16 23:13 | 特許サーチ