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意図的 or not 意図的?調査の「漏れ」

特許調査において「漏れ」という単語は、通常、ネガティブな印象で語られます。できるだけ起きて欲しくないもの。避けたいもの。しかし、「漏れ」を単に「調査範囲に含んでいない」という、ポジティブとは言えないまでもニュートラル(?)に使う場合においては、特段忌避するものではありません。

「漏れ」がネガティブになるかどうか、それはその漏れが意図的なものかそうでないかによります。

前回の「再公表公報」シリーズ第三部公開後、@hirohashyさんがこのようなツイートをされていました。
日本語でされた国際特許出願であって、国内書面が提出され、国内移行された案件が再公表公報の発行の要件となると、日本語出願のPCT出願が必ずしも再公表公報が発行される訳でもないということか。移行しなければ、国際公開公報のみになる可能性もあるということだな。

すなわち、日本語の特許文献が100%日本で発行されるわけではなく、日本の特許データベースをが日本語の特許文献を100%収録しているわけではない、ということです。

では、果たして「日本に国内移行しなかった日本語WO公報が調査範囲に含まれないこと」は、「漏れ」なのでしょうか?

確かに第二部で、
・ 再公表公報の発行には大きなタイムラグがあること、
  (公表公報も同様)
・ HYPAT-iデータベースでは「発行日」を条件指定するとそれは国内公報発行日
  (公表日・再公表日)を意味すること、
  (指定日時点で日本国内未発行でも公知文献たりうる国際公開が漏れる)
・ PATOLISで発行日を「PD」で指定すると、公開公報しかヒットしないこと、
・ PATOLISで発行日を「PDX」で指定しても、公表・再公表については公表日・再公表日を
  意味すること、
・ PATOLISでは国際公開日を「PDI」で指定できるがHYPAT-iでは国際公開日を指定する
  機能がないこと、
  

といった再公表公報特有の事情を書きましたが、これは換言すればすなわち、

1) 再公表公報や公表公報が未発行の日本出願は、データベースに収録されない。
  (少なくともIPDL、PATOLIS、HYPAT-iには収録されない。つまり漏れる。)
2) 公知日が例えば「2011年1月10日以前」の先行文献を見つけたい場合、
  HYPAT-iで発行日を「~ 2011年1月10日」と指定すると、日本で未発行だが
  すでに2009年3月31日に国際公開されている日本語WO公報が漏れる
3) PATOLISでは検索コード「PD」「PDX」を用いると、同様に漏れる
4) 但しPATOLISには「PDI(国際公開日)」という検索コードが用意されており、
  PDI<=20110110という検索式を併用すれば網羅できる。


ということになるわけです。

果たして、この「漏れ」をどう捉えるか。

私は、この「漏れ」の捉え方、扱い方は、調査の目的と予算にかかっていると考えています。

例えば1)の漏れは、「現時点で生きている出願や権利」を調査する侵害予防調査においては常にその可能性を気に留めておかなければならないと言えます。が、10年前の出願日を持つ特許を無効化したい調査の場合は、さほど気にしなくて良い点です。ただし、無効化資料調査においては、2)、3)、4)の漏れの可能性を考慮しなければなりません。

ですが、お客様の予算や納期によっては、「敢えて公表・再公表公報を探しに行くことをしない」という選択肢もあり得るとも考えています。とにかく低予算の場合や短納期の場合、わざわざ件数を増やしたり別のデータベースを使用するコストや手間をかけたりすることが、必ずしも求められないこともあるのです。

ですから、意図して「日本に国内移行しなかった日本語WO公報が調査範囲に含まないこと」は、(特にそれが侵害予防調査なら)ネガティブな「漏れ」とは言えませんし、逆にお客様から相応の予算と納期を頂いた上で、できる限り網羅性の高い調査を依頼されていながら「日本に国内移行しなかった日本語WO公報」の存在を忘れていたとなれば、これは意図しなかったネガティブな「漏れ」と言えます。

ですからその後の@hirohashyさんのツイート
網羅性を追求すると母集団も大きくなり、莫大な費用になるケースがあるから、その辺バランスになると思う。その辺提案して貰えるようなコンサル的な要素がある調査会社が私個人としては望むところです。
は、まさに私の考えるところでもあるのです。

どのような公報までを調査対象とするのか、サーチャーは受注の際にしっかり提案と説明ができる必要がありますね。多少クドくなっても
「あれは含めますか?」
「これはひとまず除外しますか?」

という確認は絶対に必要です。
「この検索式ではコレコレのような文献は含まれますか?」
とお客様に尋ねられて、サーチャーが
「えーーーっと…」
なんて口ごもってしまうようでは、お客様に不安を抱かせてしまいます。
「含まれます」「含まれません」
としっかり回答して、含まれない場合はどうして含めなかったのか、含まれない部分は追加調査可能か、含める場合は予算と納期がどのように変わるのか…サーチャーがきちんと納得のいく説明ができれば、お客様も安心して任せて下さるに違いありません!

by hemp-vermilion | 2011-01-14 00:26 | 知財いろいろ

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