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発行されるはずではなかった公報たち

今年もはや半年が過ぎ、「弁理士の日」がやってまいりました。ここ数年の例となっているドクガクさんの企画、今年のお題は「知財業界のトリビア」とのこと。

はて、トリビアですか…知財業界に入って15年目とはいえ、
「ねぇ、知ってる~?実はね…」
とドヤ顔でご披露できるような知識なんて持ち合わせていないのですけれど。
しかも、データベース検索でも特許調査でもなく「知財業界」のトリビアなんて。

と、お誘いをくださったドクガクさんに弱音を吐いたところ、いくつかヒントをくださいまして、それを基に頭をひねり、ギリギリ当日になってからこのような題に決めました。

何年か前に当ブログでご紹介したように、何故か公報が2度発行されてしまったというような、何らかの手違いから発行されるはずではなかった公報が発行されてしまう、ということが、現実にはあります。

真っ先に思い浮かんだのは、もう10年は昔になるかと思いますが、PCTの国内移行ウォッチをしていた案件で、「国内移行していないのに公表公報が発行された」というものでした。国内移行をしていなかったのか、翻訳文を提出していなかったのか、具体的なところは忘れてしまったのですが、とにかくその時に「公表公報が発行されたからといって国内移行したとは限らない」と学んだことは覚えています。

で、その案件を特定してご紹介しようかな、などと思いいくつかの検索式を実行してみました(昼休みに…)

「公表日」が「2015年7月1日以前」、且つ
「審査最終処分」が「翻訳文未提出による取下(PCT)」のもの、
という条件でヒットしたのは6件。

これらを眺めてみると、ほとんどが国内移行手続きまたは翻訳文提出の期限を徒過してしまったもののようで、あるものは上申書を提出し、却下理由通知書に対しては弁明書を提出し、あるものは行政不服申立を行い、などするも、あえなく「手続却下の処分」となっております。

期限を徒過していても翻訳文が提出されれば公表公報は発行されるもののようです。審査記録に「翻訳文提出書」の記載がなくても公表公報が発行されているのは、上申書とともに提出された「物件提出書」が翻訳文なのであろうと思われます。数日程度の遅れでなく大幅な期限徒過ではどうなるのか、といったところまで検証してはいませんが(何しろ本日の昼休みに大急ぎで検索してみたものですから)、それもちょっと気になります。

面白く思ったのは、こういったケースでも、却下理由通知の前に出願番号特定通知書が特許庁から送付されていることです。提出された国内書面や翻訳文が期限徒過していても、その時点では却下しないようなのです。何か、特許法上で規定する条文があるのかしら。

それと、よく理解できなかったのが、この6件に含まれていた「特公昭55-500110」です。
【出願番号】特願昭54-500332 昭和54年02月08日
【公表番号】特公表昭55-500110 昭和55年02月28日
【再公表番号】特再公表WO79-00716 昭和54年10月04日
【審査最終処分】翻訳文未提出による取下(PCT) 昭和55年04月14日
【審査記録】
特許願/実用新案登録願 (A63) 昭和54年02月08日
手続補正指令書(出 願) (A111) 昭和54年12月07日
手続補正書(方式) (A51) 昭和54年12月11日
未審査請求包袋抽出表作成 (A300) 昭和61年04月03日

審査記録には記載がないものの、公報のフロントページには翻訳文提出日が昭和54年11月5日である旨の記載があり、優先権主張国が英国であることを考えると、日本語公報が発行されているからには何らかの形で翻訳文の提出はあったのだろうと思われます。このくらい古い出願になると、整理標準化データに誤りがあるとしても包袋も廃棄されていて、正しい情報が何なのかは突き止められませんね。

まさか、優先権主張国は英国だけど、PCT発行言語は日本語だったとか?それなら、何故か「再公表公報」としてWO公報番号が記載されているのも納得です。esp@cenetなら調べられるかしら。とにかく不思議な案件です。

審査最終処分といえば、審査最終処分が「拒絶」であるのに登録公報が発行されている、というものもあります。

「特願平3-233106」は、登録査定されてその月のうちに登録料を納付し、登録公報も発行されたのに、その発行からひと月も経たないうちに特許庁から「誤送通知」が出され拒絶査定がされた、という、天国から地獄のようなケースです。

「特許/登録」以外の審査最終処分でありながら登録公報が発行されているのは82件。この中には特許庁の
「あ、登録って言ったけど、ちょっと待って、違うかも!」
という案件ばかりではなく、登録査定後や登録料納付後に出願を取下げたり放棄したりしているものも含まれています。

ちなみに、審査記録に審査中間記録コード「A26」すなわち「誤送通知」の記録があるのは11701件。…誰にでも間違いはある。日本国のお役人にだって、ある。にんげんだもの。

…以上、発行されるはずでなかったのに発行されてしまった公報たち、の一部をご紹介してみました。

「それのどこがトリビアなんじゃー!」という声が聞こえてきそうですが、「へぇ~」と思ってくださる方がいらしたら、嬉しく存じます。

あ、結局、はるか昔にウォッチしていた案件は、どれだったんでしょうね…?

by hemp-vermilion | 2015-07-01 20:48 | 知財いろいろ

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