教科書的な基礎、と、応用
2013年 03月 28日
さて。
怒涛のように仕事をしていると、つまりインプットが多いときには何かをアウトプットしたくもなるもので、いくつかここで書きたいと思うネタがあったりはするのですが、何から順番にどのように書こうかと悩んだ結果、標題のようになりました。
キッカケは何かといいますと、実は昨年秋に参加していた検索競技大会の成績表が忘れた頃(今年の2月頃?)に届いたことでした。成績については悪くはなかった(=優勝などはできなかったけれど平均より上)、ということ以外忘れてしまいましたが(片付ける余裕も無い部屋のどこかに成績表が紛れ込んでしまったためにどんな成績だったか見直せない…orz)、同封されていた模範解答を見て
「なるほど、これは教科書どおりにできている人が好成績になるようにできてるのね」
と思ったことは覚えているのです。
「教科書どおり」の調査とはどんな調査か?
(以下、先行技術調査を例にとって書きます。)
まず最初に、発明の内容(調査対象クレーム)をその発明の特徴となる構成要素ごとにわけます。どういうことかというと、例えば新規性を調査したい発明が、
複数枚のシート状スポンジケーキと、
前記スポンジケーキに塗布されるホイップされたクリームと、
一口大にカットされたフルーツとからなる洋菓子であって、
前記複数枚のスポンジケーキと前記クリームとは、最上層がホイップされたクリームにな るよう交互に層状に積み重ねられ、
前記フルーツは前記最上層のクリームの上に載置されることを特徴とする洋菓子。
という発明であるとすると、発明特定事項を
A) 複数枚のシート状スポンジケーキ
B) シート状スポンジケーキと交互に積層されるホイップクリーム
C) 最上部に載せられるカットフルーツ
のような具合に構成要素をリスト化するということで、これはいわば特許性調査(出願前公知例調査や無効化資料調査等)では「基本中の基本」です。
INPIT(工業所有権情報・研修館)の検索エキスパート研修のテキスト(特許分類の概要とそれらを用いた先行技術文献調査)にもそう書かれておりますし 、包袋の中に時々入っている「検索報告書(登録調査機関に外注された審査の際に必要な先行技術調査等の報告書)」を見ても、調査がこの基本に忠実に沿って行われていることが分かります。
調査では、検索式より何よりまず、この構成要素の切り出しが適切にできているかどうかが非常に重要で、ここで発明の理解を間違うと、どんなにテクニックを弄した検索式を立てようが、どんなに広い範囲を精読しようが、調査の全てが台無しになります。
この構成要素の切り出しについてもいろいろと考えるところはありますが、とりあえず次に進みます。
構成要素を切り出してリストにしたら、各要素ごとの概念を表わす検索式をつくります。これを「翻訳する」と表現する場合があります。その概念を表わす特許分類なりキーワードなりをみつけて、置き換えていくからです。教科書どおりには、適切なFタームがあれば、まずFタームを用いた式をつくります。なぜにFタームなのかと言えば、Fタームというものはそもそも審査官が行う先行技術調査に用いるために作られた検索ツールだからです(つまり一番適したツールだということになっている)。
上述の例の場合は、えーと、そうですね、「4B014(菓子)」というテーマが良さそうです。
A) 4B014GB12 種類>洋菓子>スポンジ生地使用
B) 4B014GE02 形状・構造・容器>形状・構造>多層
C) 4B014GG09 原料>野菜・果物
ホイップクリームの概念は「原料>乳製品」かしら?とか、デコレーション用フルーツも「原料」なのかしら?などとという疑問を解決するステップは、ここでは省略します。
さて、各要素ごとに検索式が出揃ったら、これらをAND演算します。
4B014GB12*4B014GE02*4B014GG09 = ヒット件数28件
という結果が出たら、まずこの28件をスクリーニングします(あ、モロゾフがバウムクーヘンの出願してる!)。このスクリーニング結果に基づいて、その後検索範囲を適宜広げていきます。
以上が、いわゆる教科書どおりの先行技術調査方法です。
長くなりましたが、ここまでが前段。ここからが本題です。
ですが。こんなやり方で調査業務を行っているプロフェッショナルサーチャーなんて、(登録調査機関のサーチャーさん以外では)私は今までお会いしたことがありません。それは、審査のための調査とそれ以外の調査とでは同じ先行技術調査でも細かい違いがあると いうのが理由のひとつ、そしてもうひとつは、どんなものでも技術者というものは、ある程度習熟したら基礎は踏まえつつも自身の経験その他によって少しずつ応用を編み出していく、というのが通常だからです。そして、各調査案件ごとに、どのように応用を加えていくかが検索技術の腕なのだと私は思っています。
教科書どおりには、例えば発明が構成要件列挙型でクレーム記載されていた場合は、その構成要件がそのまま切り出されます。上記の例の場合なら、
A) 複数枚のシート状スポンジケーキ
B) 前記スポンジケーキに塗布されるホイップされたクリーム
C) 一口大にカットされたフルーツ
D) スポンジとクリームとは交互に積層
E) 最上層がクリーム
F) クリームの上にフルーツ
のようなかんじでしょうか(多少、大げさかもしれません)。
そりゃ、これらの条件をAND演算して全部を満たす発明が見つかれば、そこで調査の目的は達せられます。ですが、X文献というものは通常そんなに簡単に単純に見つかるものではないということを、サーチャーなら誰もが知っています。
成績表についていた模範解答には、見事に切り出された構成要素のリストがありました。私は、そんなにたくさんの項目を切り出した記憶がありませんでした。いくらFタームが最適ツールだといったって、付与の精度はバラバラですし、件数が少なめなら構成要素の有無は目視スクリーニングの時に読めばいいし、という気持ちで、最初からそんなに細かく切り出さなかったのです。
なるほどねー。例えヒット件数は少なかろうと予想していても、もしXがその中にあったとしても調査はそこで終わりにはならない(Xひとつで満足せず、無理の無い範囲でYも探さねばならない)ということが分かっていても、とりあえずまずはクレームの記載どおりに切り出して、Fタームをあてはめて、AND演算をやるだけはやってみなくちゃいけないのね。やってみなければ、このサーチャーは基本を理解してますってことが、採点者には判りませんものね。
というわけで、敗因の分析ができたからには、来年度も挑戦してみようかな!?
あ、今回のHYPAT-iは、快適に動作しました。それと、PATOLISは、割と直前になって使えないことになり、別のデータベースに変更しました(CKS-Web)が、HYPAT-iが快適だったのでCKS-Webは使わずじまいでした。
# by hemp-vermilion | 2013-03-28 23:09 | 特許サーチ